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お袖の中で燻らせる小さく丸い携帯用の香炉のことを袖香炉とか袖炉(しゅうろ)とか申します。
上のお写真の丸い香炉がそれでございます。表に金や銀粉で兎と波が描かれていてとても綺麗ですね。高砂香料工業株式会社様のご厚意で、素敵なお写真を掲載させていただいております。本当にありがとうございます。
中に球形の薫炉が入っていて、どのように転がっても、火炉が絶えず水平に保たれるようなしくみになっているそうでございます。
調べてみましたら、そもそもこのしくみが考案されたのは秦の始皇帝のころですとか…もとは吊香炉と呼ばれ、始皇帝が馬車の中に吊るしてお香を焚いて楽しまれたとのこと。その香りは馬車が通り過ぎたはるか後にも漂ったそうでございます。
これが日本にまいりまして、徳川様の御代に小型の漆器になったものが「袖香炉」。お着物のお袖に入れて踊ったり舞ったりしながら、上品なお香の香りを辺りに漂わせるという見事な芸術品へと発展を遂げたそうでございます。
ところで・・・薫りと言えば源氏物語の薫君が思い出されます。
寝殿の南の廂に 常のごと南向きに 中少将着きわたり
北向きにむかひて 垣下の親王たち上達部の御座あり。
御土器など始まりて ものおもしろくなりゆくに
「求子」舞ひて かよる袖どものうち返す羽風に
御前近き梅のいといたくほころびこぼれたる匂ひの
さとうち散りわたれるに
例の中将の御薫りのいとどしくもてはやされて
いひ知らずなまめかし。
はつかにのぞく女房なども
「闇はあやなく心もとなきほどなれど
香にこそげに似たるものなかりけれ」とめであへり。
春の夜の闇はあやなし
それかとよ香やは隠るる梅の花
散れど薫りはなほ残る
袂に伽羅の煙り草
きつく惜しめどその甲斐も
亡き魂衣ほんにまあ
柳は緑紅の花を見捨てて帰る雁