お箏を一度でもお習いになられた方が必ずお弾きになるのが、この曲でございます。
お正月にもなりますと、「春の海」と「六段の調」が街中にあふれます。箏曲が、だんだん皆様に忘れられ、衰退の一途をたどっているように思われる現代でも、この曲だけはどうやら健在のようでございますね。
こんな有名な曲のことを私があれこれ申し上げるのは野暮というものでもございましょうが、この曲が、なんと1600年頃に作曲されたもので、400年間途絶えることなく、人から人へと脈々と受け継がれてきた名曲であることにまで想いを馳せてみますと、また違った趣きで聴こえてまいりますのも、不思議なものでございます。
大切な日本の伝統を絶やしてしまっては大変でございます。
日本音楽の単旋律の素晴らしさは、楽譜に書いて残せるような単純なものではなく、また、DVDやCDではその生音の豊かさばかりではなく、演奏の技術を伝えることさえ出来ません。
一度途絶えてしまいしたら、二度と地球にもどってくることはない大切な宝物・・・。
そんなことを考えておりましたら、技量の未熟さゆえに妙に緊張してまいりまして、とても難しくて弾けなくなってしまいました。
そこで・・・
ひとつは何も考えず、素朴に真正直に弾きました。
ひとつは、源氏物語の冒頭の美しい文章をちょっと思い浮かべて遊びました。
『いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひ給ひける中に、いとやんごとなき際にはあらぬがすぐれてときめき給ふありけり・・・。 』
時代は全然合いません。そもそも平安時代には、陰旋法すら存在してないはずのものをと、非見識を笑われるかもしれませんけれども、良い音楽は良い文学とともに時代を超え、かえって新しく、いつまでも瑞々しく私達を楽しませてくれる・・・そんな気分に興を覚えて楽しみました。どうぞお手柔らかに優しくお付き合いくださいませ。
さあ、次は何を弾いて遊びましょ・・・。